【読書感想文】ゼロからトースターを作ってみた
『ゼロからトースターを作ってみた』
トーマス・トウェイツ (著), 村井理子 (翻訳) (飛鳥新社)
タイトル通りの本である。
著者はトーマス・トウェイツ。
彼がこの本(もともとブログ)を執筆したのは、ロンドンの王立芸術大学大学院在籍中のことだ。
卒業制作展で展示することを目標に、「ゼロからトースターをつくる」というプロジェクトを始めた。
そう、著者は技術者や科学者でなく、アーティストなのだ。
「ゼロからトースターをつくる」の”ゼロから”とは何を指すのか?
どんなトースターを目指すのか?
著者はプロジェクト開始に当たりいくつかのルールを設定する。
・目標は量販店で安く売られているシンプルなポップアップトースター
・部品を原材料からつくる
・できるだけ一人の手作業でつくる
手本とするトースターを4ポンド弱(日本円にして500~600円ほど)で購入し、バラバラに分解する。
「出てきたパーツを、同じ材料で・同じ形でつくって組み合わせれば、同じトースターができるぞ!」という発想だったのだが…すべてのパーツを完全にバラバラにすると、その数400以上!
素材も、鉄や銅、ニッケル、プラスチックなど様々だ。
それでも著者はひるむことなく、まずは鉱山へ鉄鉱石を探しに行き、自力での製錬(石から金属を取り出すこと)を試みるのであった…。
その他の素材やパーツはどうしたのか、ぜひ本書をお読みいただきたい。
表紙にうつる前衛的なオブジェが完成品である。
一見ばかばかしいようなのだが(失礼)、なぜこんなプロジェクトを実行したのか。
著者は『電気トースターが、近代の消費文化の象徴であるように思えるからだ。』(P25)という。
パンをトーストしたいなら、火を起こしてあぶるだけもいいはずだ。
人類の文明が発達し、金属加工、電気の発明、電化製品の誕生、プラスチックの流通が進み、「なくてもいいけどあったら便利」な電気トースターのようなものが今存在している。
自分一人でトースターをつくるのはとんでもない金額と労力を必要とする作業だった。
ほとんどの人は、トースターの部品の材料がどんなところで、どのようにつくられているかも知らない。
にもかかわらず、人類の英知を集めたような製品がわずか4ポンドほどで買えるというのはすごいことだ…彼は気の遠くなるような旅と作業の中で思考を深めていく。
つまり、著者はこのプロジェクトをとおして、消費社会に疑問を投げかけ、自分たちが享受している技術の恵みに再度目を向けさせようとしてくれるのである。
面白おかしいノリに見えて、背景にあるテーマを知ると、これが深遠なものに見えてくる。
さすがアーティスト、といった感じの本だった。
ちなみに、著者はその後人間社会に嫌気がさし、本気でヤギになるという計画を実行。その功績(?)がたたえられて(?)、イグ・ノーベル生物学賞を受賞した。
まだまだ面白いことをしてくれそうな人物である。
(文字数1145)
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文章の書き方について、アドバイスなどがありましたらぜひご教示ください。
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自力で金属の製錬をするところなんか、ぜひ高校生向けの化学の授業で紹介したいですね!
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