【読書感想文】パンダの死体はよみがえる

『パンダの死体はよみがえる』 遠藤秀紀 (ちくま新書)


東京上野の国立科学博物館
「地球館」と呼ばれる建物の最上階に、百体以上の動物の剥製が並んだ部屋があるのをご存知だろうか。

「大地を駆ける生命」と銘打たれたこの部屋は、本書の著者・遠藤秀紀氏が編み出したものだ。

あらゆる動物の死体を集め、計測・分析して研究成果を出すとともに、博物館職員としてそれを適切な形で保管する…それが著者の仕事である。

本書の始まりは「動物園で飼育されていたゾウの、死の現場」だ。

命燃え尽きようとする巨大な生物。
そのすぐ横で筆者をはじめとする研究者たち考えるのは、分厚い皮へのナイフの入れ方であり、顕微鏡観察用のサンプル摘出であり、じきにお目見えすることになるであろう骨や腱の形状である。

実は、動物園などで飼育されるような比較的身近な生き物であっても、未解明の謎や、科学的に証明されていない事象というのは少なくない。
生きている細胞や筋肉をはじめとする器官の動きは、生きている間にしか真の姿を見ることができないからだ。
死んだばかりの死体との出会いは、研究者たちにとっての千載一遇のチャンスとなる。


その結果の一つが、著者が見出した「パンダの指」に関する研究である。
それまで常識として考えられていたある知見が、上野動物園で飼育されていたパンダ(ホアンホアン)のMRIとCT撮影によって覆された。

どんな研究かは本文にゆずるとして、筆者が熱をもって訴えるのは「死体から得られる多くの情報を無駄にしてはいけない」ということである。


野生動物の死体に出会う機会も少なくなり、「死」自体をタブー視してしまいがちな現代の人にとって、死んでしまった動物はできるだけ早く埋葬・処分をしてほしいと思われるだろう(もちろん衛生的な問題もある)。

しかし、目を背けるだけではいけない、と筆者は言う。

1匹の動物の死が秘めている「謎」や「歴史」を霧散させないため、未来のまだ見ぬ研究者へ標本をつなぎ、その価値を託す。
あらゆる動物の死に立ち会ってきた筆者はその重要性を切に唱えるのだ。

すごい熱量を秘めた本だった。


(844文字)

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【800文字読書感想文】

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AOSHISHI BUNKO

新潟で活動している青鹿文庫(あおししぶんこ)です。 一箱古本市などブックイベントへの参加、科学書を中心とした読書の記録などをしています。

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