【読書感想文】ファーブル巡礼

『ファーブル巡礼』津田正夫 (朝日ソノラマ)(昭和51)


在りし日の昆虫少年たちが夢中になり、多くの子どもに科学者という夢を与えたJ.H.ファーブル『昆虫記』は、フランスから遠く離れた日本で爆発的なヒットとなったものの、本国ではあまり迎合されず、生前のファーブルはかなり辛い生活を送ったという。

いつでもファーブルが自然に手向ける、真摯でいて温かい視線。
その背後にある彼のハードな生い立ちは、若年向けの伝記などでもよく語られるところだ。

ファーブルは3歳で口減らしのため、生まれたサン・レオンの実家から祖父母のいるマラヴァルへ預けられている。
その後も家計の苦しさや教師としての異動があって、生涯の前半だけで南仏の10以上の町を転々とした

『ファーブル巡礼』はタイトルの通り、ファーブルの人生に縁のあった町や村を訪ね、その足跡をたどるドキュメントだ。

著者はファーブルの住んだ家を訪ねるだけでなく、現地の役場やファーブルの子孫と交流し、実に丁寧にその人となりを追っている。
その「ファーブルの人生を追体験し、余すところなく詳らかにしたい」という情熱には感服させられる。

学校で子どもに勉強を教えるうちに、ファーブルは子ども向けの科学書を書く使命を自覚するようになる。

『彼は、カルパントラスで小学校の教員をしているころから、いかに教科書というものが無味乾燥のものか、ということをしみじみ感じていた。生徒たちは、いずれは田舎に帰って自分の土地で働くだろう。その時、その土地が何で出来ているか、植物は何の栄養を必要とするかを知っていたら、どんなに役立つだろう。』(201ページ)

150年以上がたった今でも、同じように思う教師や親がいるはずだ。


ファーブルの場合は思うだけにとどまらず、次々と子どもが興味をもちやすいような、それまでの教科書とは一線を画した科学啓蒙書をつくっていった。
この画期的な読み物は初めのうちよく売れたものの、社会情勢の変化や海賊版の横行により売り上げは低下。
愛する我が子の死も重なり、人生の終わり近くまでファーブルは苦汁をなめ続けた。

そんな中でも信念をもって『昆虫記』をはじめとする名著を残したファーブル。
二宮金次郎を彷彿とさせる「貧困に負けず、あきらめず努力し続ける」という姿が、日本人に受け入れられやすいのかもしれない。


(936文字)


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【800文字読書感想文】

800~1000文字を目安に感想文(書評?)を各練習をしています。

文章の書き方について、アドバイスなどがありましたらぜひご教示ください。

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~追記(2020/6/24)~

古い本なので手に入らないかと思いきや、新潮選書から発刊されていました!

AOSHISHI BUNKO

新潟で活動している青鹿文庫(あおししぶんこ)です。 一箱古本市などブックイベントへの参加、科学書を中心とした読書の記録などをしています。

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